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理二の学生・OBOG・先生が語る 理科大Voice

ウィーン大学・在外研究レポート

  • 教職員
  • 理学部第二部数学科准教授・佐古彰史先生

皆さんこんにちは,理学部第二部数学科の佐古彰史と申します.2016年の2月末から9月初旬までの6ヶ月半,ウィーン大学の物理学科,数理物理研究室に滞在して研究してきましたので,その感想などをレポートします.

【渡航の動機】

自分の専門は数学と物理学の中間領域にある場の理論というものを扱っています.皆さんの住む世界を記述する物理法則は今のところ電磁気学と2種類の核力と重力の理論だと考えられていますが,それらは全て場の理論という幾何学を用いて記述されております.しかし,場の理論(の量子論)が物理理論として作られ始めてから70年以上たちますが数学的な定式化は成功していないのが現状です.それを目指す一つのアイディアが非可換空間上の場の理論というものですが,なかなか難しい問題があります.そこでその分野の専門家であるHarald Grosse 先生にいろいろな技術を教わりながら共同研究するためにウィーン大学に行くことにしたのです.

【ウィーン大学】

オーストリアの首都,ウィーンはヨーロッパの大部分を支配してきたハプスブルグ家の本拠地で,街中には巨大な宮殿があちこちに残っています.現在はハプスブルグ家の財宝を展示する沢山の博物館として多くの観光客で賑わいを見せています.ウィーン大学は1365年,日本で言うと室町時代,細かく言えば南北朝時代のころ,やはりハプスブルグ家のルドルフ4世という大公によって作られた大学だそうで,写真にあるように内部は宮殿のようになっています.(ヨーロッパの建築物は石で造るので半永久的に使えます.)なので,大学に通い始めてしばらくは,美しい建物を見て歩くだけで楽しく,写真を沢山とってSNSにアップしたりしました.さらに歴史が古いので,沢山の学問のスーパースターの痕跡があります.みなさんも名前を聞いたことがあるであろう,ドップラー効果のドップラーや量子力学のシュレーディンガー,統計力学のボルツマンといった物理学者はもちろん,不完全性定理のゲーデル,精神分析学のフロイトなど人類史に燦然と輝く知の巨人が学び教えた場所で自分も研究できるというのは,幸せな限りでした.彼らの名を冠した研究所,ホールや銅像や住んでいたアパートなどがそこかしこにあり,彼らへ思いをはせると自然とやる気もみなぎってきます.東京の満員電車でストレスを抱えながら通勤するより,美しい町並みやキャンパスを歩いたりトラム(路面電車)で移動しながらアイディアを練る方がずっといいに決まっています.雑事に腐心することもなく,集中して共同研究ができ,充実した時間を持つことができました.

【オーストリアの教育】

オーストリアの教育制度はドイツのものとほとんど同じで小学校の4年生終了後にギムナジウムと呼ばれる基本的に8年で修了する大学進学組み用の学校に進み,そこの修了試験をパスすると原則好きな大学に入ることができます.ウィーン大学の先生達は「入学試験が無く大量の学生が集中してしまう,この制度は問題だ」とおっしゃられていましたが,理学部第二部の学生の様に多様性があり悪くないのではと思われます.ただ,試験は厳しく回数も多いので,学生も先生もどちらも大変そうでした.ヨーロッパは学士,修士,博士などの学歴が非常に重要である社会ですから,学生も真剣ですし,一度社会に出てからも年齢にも関係なく,いつでも大学に入り直し学び直す社会になっているので,そのあたりも二部と似たような印象をうけました.

大学院生と一緒のゼミにも参加しましたが,研究へ入っていく仕方は日本とは大きく違うように見受けられました.というのは,日本の場合は先端的な研究に入る際に,その基礎的な部分をかなり丁寧に輪講で修得し,系統的な知識を得てから研究に入るのが普通だと思います.しかし,ウィーン大学で参加していたゼミでは,大筋のストーリーはありつつも,自分も含めたスタッフや学生も両方が代わるがわる先生役として論文の解説をします.学生が発表する内容も,かなり先端的な近年の論文を(ある程度の教員による指導はあるものの),数週間の時間で先生役として解説できるようになっていかなければなりません.水泳の授業に例えると,日本だとバタ足やってビート板で練習してと段階を踏むのにたいし,ウィーンではいきなり海に連れて行かれて舟から落とされるような感じでしょうか.学生によって完成度はまちまちでしたが,このようにいきなり研究の現場に連れて行ってしまう教育というものもあるんだと,大いに参考になりました.また,日本人でもウィーンに留学されている方にも会う機会がありましたが,素晴らしい環境の中で個々の才能を伸ばして世界で挑戦しているのがよくわかります.

ちなみに子供が現地の小学校に通ったのでその様子もリポートすると,とにかくノビノビしています.小学校は8時までに登校し10時くらいにおやつを食べる時間があり,持参したパンやジュースなどで楽しみます.昼食は無く12時ころには学校が終わります.ウィーンは国際都市なので,公用語のドイツ語のできない日本人が入ってきても少しも変わったことではなく,近年ニュースにもなっているシリア難民はもちろんですが,アフリカ系,アジア系,スラブ系などなど沢山の人種,いろいろな言語が母国語の子供で構成されています.そういった多様性が当り前の環境ではイジメなど起こりようもないのです.ただ,小学校でも成績が悪いと落第があるので,ドイツ語もある程度できないとなかなか進級できないということも事実です.

【休暇】

しっかりと休みをとることも効率よく仕事をする上で大事なことだと,オーストリアに行くとよくわかります.オーストリアの人は朝が早く,お役所でも8時半ころから空くのですが12時半ころに閉まってしまいます.それどころか,保健所で予防接種に行ったときなど,1時間も列で待ったのに,11時半ころに「ワクチンが無くなったからお終いにします」と言われて窓口が閉まったこともあります.それでも現地の人は別に文句もいいません.

では,お勤めの人は何時ころに帰るかというと,職種にもよりますが多くの人が午後2時くらいに帰宅してしまいます.平日の昼間に公園でお父さん達が子供と遊んでいるのを見て,滞在の初めのころは皆失業者なのかと思いましたが,そうではなく昼には帰って家族や友人と過ごすのが普通のようです.それでも一人当たりのGDPは日本よりオーストリアの方がはるかに多いので,いかに日本の効率が悪いかがわかります.

日本の効率の悪さの大きな原因の一つには,無駄にきちっとした書類を揃えることでしょうか.ウィーンでは多くのことは適当に各個人の裁量決まるのでそういった書類も不要で効率がいいのです.休暇も1ヶ月以上を地中海や黒海のビーチや,アルプスなどで過ごし,その原資は会社から休暇手当てとして夏休みとクリスマス休みに支給されるようです.もちろん,数学者や理論物理学者はどこに行っても絶え間なく計算を続けてはいるのですが,それでも,しっかりと家族と過ごす時間があります.現地の先生にお勧めされて訪れたアルプスの写真をご覧下さい.ウィーンから電車で数時間で,このような美しいアルプスの山々とその麓ののどかな酪農地帯に足を運ぶことができます.現地の人たちはこうしたところに何週間と滞在するのです.しっかり働き,全力で休暇を楽しむという,メリハリのある生活.日本人にはなかなか出来ない憧れのライフスタイルですよね.

【文化】

ドイツ語文化圏の人は食事を楽しもうという気持ちが日本人より希薄です.温かいものを食べるのは昼食くらいで,朝,夕はパン,チーズとハムくらいだそうです.(ただしワインは昼でもいつでも飲みます.)ウィーン風シュニッツェル(カツレツ)やグラーシュ(シチュー)などのおいしい料理もありますが,おいしい物への貪欲なこだわりは,日本人の方が相当上です.一方で,音楽,劇などのの伝統が一部の人だけのものではなく,子供や若者を含めた一般大衆のものとして娯楽として確立しているところがすごいところです.街のいたるところにモーツアルト,ベートーベンなどの住居が残っていますし,毎日オペラやコンサートがたくさんの場所で上演されているので,気軽に楽しむことも出来ますし,ビシッとお洒落して楽しむこともできます.音楽の都,ウィーンに訪れる機会があれば,是非とも国立歌劇場などに足を運んでみてはいかがでしょうか.

日本,東京にいる人の多くや学生が誤解している点について話します.よく,「日本は治安がいい」などと聞きますし,学生なども治安が悪いから海外に行きたくないという声をよく聞きますが,多くのヨーロッパの都市は少なくとも東京よりはずっと治安がいいと個人的には感じられます.もう少し違う言い方をすると,ヨーロッパの都市で生きる人々の心には余裕があります.欧米では道や席は譲るものであり,ベビーカーは階段では周りのみんなで持つものだし,横断したい歩行者がいれば車は止まって待つものであり,子供の公園や幼稚園は広く沢山あり社会全体が子育てを支援していますし,子供が歩くのに危険な歓楽街もありません.本来,日本でも当り前にできていた時代もあったかもしれませんが,今の東京ではどうでしょう.通勤電車では殺気立っており,スマホをいじりながら歩き,子供が遊ぶ公園も幼稚園も信じられないほど少ない状況で,よっぱらいが怒鳴り声を上げたり明らかに反社会的な人たちが沢山いる地域がいたるところにあります.なぜ,日本はこんなにも心に余裕が無いのだろうと感じてしまいます.これは,オーストリアのように豊かな国だけではなく,つい先ごろまで内戦で疲弊した旧ユーゴスラビアや,ようやく資本主義が定着したばかりで,外貨をかせぐ産業があまり発達していない東欧などを訪れても,それほど印象は変わりません.ウィーンのような宮殿や富が全然なく過去の悪政のために貧しい国にも,何カ国か訪ねる機会があったのですが,いわゆるスラム街などを歩いたとしても,新宿の繁華街を歩くよりは危険な感じはしませんでした.

【最後に】

研究を純粋に追い求めるためには,素晴らしい環境だったウィーンですが,もちろん日本には日本ならではの良さもあります.豪華な宮殿や美しい街並みはほとんどないですが,炊き立ての米の飯は全くもって最高です.日本のように均質な社会では多様性や個性を認めるのは難しいという問題であっても,逆に均質さや個を殺して全体に奉仕するということは易しいのですから,ある見方では強みなわけです.そして,このような均質さなど多くの点で日本は世界から見て特殊な環境であり,そのことを知識としてではなく肌で感じることができた事は自分にとっていい経験でした.若い学生にもどんどん世界で自分と異なる価値観にぶつかってみてもらいたいと思います.心に余裕を持つという部分だけは,東京にあってもそうあり続けたいと思います.

ウィーン大学・在外研究レポート

近郊のアルプスの風景

ウィーン大学・在外研究レポート

イースター復活祭のときのシェーンブルン宮殿

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