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理二の学生・OBOG・先生が語る 理科大Voice

グラーツ大学・在外研究レポート

  • 教職員
  • 理学部第二部数学科講師・伊藤弘道先生

1.はじめに

 まずは、今回の在外研究に至った経緯ですが、吉岡先生や佐古先生に続き、数学科では皆で協力して、順番にサバティカルといいますか、海外経験を積もうという素晴らしい文化があり、まだ若輩の私もそのご厚意に甘えさせて頂いたということで、この場を借りて再度、援助してくださった本学に感謝申し上げたいと思います。私は解析学の偏微分方程式論が専門分野で、破壊現象の数学解析という数学内では一風変わった研究テーマですので、国内にはほとんど研究者がおらず、海外研究者との交流はかねてより盛んにしておりました。今回、このような機会を頂き、共同研究者がいるオーストリアのグラーツに行くことに決めました。

2.グラーツってどんな所?

 オーストリアと聞くと、音楽の都ウィーンやモーツァルトの生まれたザルツブルグなどのイメージが強いかもしれません。グラーツは人口約25万人ほどですがオーストリア第2の都市で(第1はもちろんウィーン)、1999年に街の中心部がグラーツ市歴史地区として世界遺産に登録された、街並みがとてもきれいなところです。オペラ座や教会、美術館や博物館なども多く、とても文化的な場所で、大学ではグラーツ大学の他、工科大学や音楽大学などはとても有名です。グラーツ大学は430年以上の歴史をもち、あのヨハネス・ケプラーも教鞭をとられたということで、街の至る所にその面影があります。

3.研究活動・学歴社会

 オーストリアに限ったことではありませんが、ヨーロッパの魅力の1つは鉄道やバスで国内や近隣諸国を移動できることです。ですので、ヨーロッパの研究者の交流はとても盛んです。私も約5か月の滞在の間、オーストリア国内ではグラーツの他、ウィーン、リンツ、クラーゲンフルト、国外では、チェコ、イタリア、ドイツ、台湾(これは飛行機で移動しました、日本からの方が近いですね)で国際研究集会やセミナーで講演したり、研究者と交流したりしてきました(研究以外でも休みの日は色々な所に出かけました)。日本の新幹線のように速くはありませんが、特急列車や高速バスなどで国境を越えて比較的容易に移動ができます。
また、これもオーストリアに限ったことではありませんが、学位をとても重要視する文化があります。ある意味、学歴社会ではありますが、日本でいうのとは少し異なっていて、どの大学を卒業したかではなく、何をどのレベルまで修得したかに重きが置かれているように思えます。たとえ学士であっても学位を持っていると、皆、誇りをもっておりますし、周りの人もそれを認めているといった雰囲気があります。日本では、普段、学位を名乗る場面はほとんどありませんが、欧米ではサインの前に書く慣習があります。私もグラーツの市役所や病院などで、たまたま自分のことを説明する場面があり、それまでも親切に対応してくれていたのですが、日本の学位ですけれど博士を持っていると言った途端、対応が急変し、とても敬意をもって接してくれたことには驚きました。日本でも学位の質保証などに取り組んでいますが、こういったことは見習うべき文化だと感じます。

4.ストレスフリー

 グラーツで生活して、1番に感じたことは、とにかくストレスが少ない、ということです。
色んな人に話を聞くと、その源には、「人生を無駄なストレスを感じることなく楽しむ」ことを大事にするオーストリアの国民性があるようです。それは特に教育や仕事環境の場面で見てとれます。
例えば、日本でいう小学校に相当する時期から、教育の中で他人へストレスを与えることのないコミュニケーションスキルや態度を身につけることに重点が置かれており、たとえ学業の成績が良くても、他の生徒へストレスを与えるような嫌がらせを繰り返す生徒は留年にするなど徹底されています。ですので、いわゆるイジメなども起こりにくい状況です。しかし、子どもの頃からあらゆるストレスを排除しようとするので、「頑張る」とか「努力する」などといったことはあまりせず、その点は日本の方が長けていると感じます。
また、世界経済フォーラムが2016年に発表した「仕事における幸福度を感じるヨーロッパの都市」ランキングによると、グラーツが1位を獲得し、ウィーンも4位にランクインしたそうです。産業では自動車関連が盛んですが、大学都市であるグラーツにおいて、85%もの居住者が現在の仕事に満足していると回答したという結果だそうです。これは、ストレスフリーを重要視する国民性が職場においても反映されているものと理解できます。今思うと、セミナーなどを夕方に開催することはほとんどありませんでしたし、先生方も少なからず、自宅で家族全員で食事をとることを常としており、家族との時間を大切にしているようでしたので、職場環境が充実しているのだと思われます。
 近年、ヨーロッパの各地においてテロなどの危険性が伴いますが、オーストリアではこの治安に対する不安を感じたことはほとんどありませんでした。イギリスのエコノミスト紙の発表する治安や安全性などを評価する世界平和度指数の2016年のランキングでは、日本が163カ国中9位なのに対し、オーストリアは3位にランクインし、様々な世界の治安調査でも毎年上位につけているそうです。この治安の良さも、無駄なストレスを排除する文化の賜物ではないかと思います。

5.おわりに

 海外に滞在するといつも思うことがあります。それは世阿弥の著書「花鏡」の中にある「離見の見」という言葉です。『観客の見る役者の演技は、離見(客観的に見られた自分の姿)である。「離見の見」、すなわち離見を自分自身で見ることが必要であり、自分の見る目が観客の見る目と一致することが重要である』と世阿弥は述べており、舞の心得のようなものと思います。他人の目ばかりを気にするのが大事なのかと思う人もいるかもしれませんが、自分を如何に客観的にみるかということだと理解しています。これはなかなか難しいことで、私も、今自分がやっている研究について、「何故その研究をやるのか」、「その研究はどういう意義があるのか」など自問自答を繰り返しておりますが、研究に没頭すると、ついつい目先のことにとらわれて見失いがちです。教員としての講義についても、「自己満足や独善的になっていないか」、「学生の目線で講義を見れているか」など反省することが多々あります。そういったとき、環境を変えて海外に出て、日本にいた自分を眺めてみると、今まで見えていなかった自分の姿に気付くことがたくさんあるのです。今回、おおらかな環境のグラーツに滞在することができて、特に強く感じました。昨今、閉塞感が強くなっている東京にいると、どうしても毎日の仕事などに追われて、客観的に物事を考える余裕が知らず知らずのうちに失われていってしまいます。
皆さんも是非、今の環境を変えて、海外に出てみてください。新しい発見や出会いがあるだけでなく、今の自分「離見」を見つめ直すよい機会になると思います。これらは決してスマホの中では体験できません。

グラーツ大学・在外研究レポート

街の中心部の丘からの風景

グラーツ大学・在外研究レポート

公園の一角にケプラーの銅像があります

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